誰かに聞いてほしいという知識共有の欲求が人類の文化発展の源

FacebookやTwitterで自分のことをたくさん書いている人を見かけると、「自己肯定感の強い人だなあ、自分が可愛いんだろうな」と羨ましく思います。

 

私はそもそも日記というものも嫌いで、長い人生において、日記をつけた期間はありません。自分のことや、その日に起こったことなどを書いていると「なんて俺はつまらない人間なんだろう」とすぐ自己否定モードに入ってしまうので、私にとっての日記やSNSを書くのは、自分をいじめる自虐行為なのです。

 

しかしそんな私も、年をとるにつれて、脳細胞が劣化しつつあるのか、どこか行って考えたり、調べて勉強したとしても、気がついたら忘れてしまっていることが増えてきました。ボケてはいないのですが、忘却がちょっと勿体なくて、もう少し几帳面に記録でもつけて生きてみようと、ブログを始める気になったのです。

 

幸い年をとると自己否定感も適当になってきていて、昔ほど自虐趣味はなくなっていました。また不思議なことに、仕事帰りにたまに飲みに行ってた北新地のバーに行きたいとも思わなくなりました。自己分析してみると、ブログを書く時間をつくるため飲みに行かない、ということではなく、どうやら自分の考えをブログに書き出すことで、バーに行く必要がなくなったようです。

  

どういうことかというと、ブログを書くことで、誰かに伝えたい、聞いて欲しいという欲求が昇華できるようになったのだと思います。バーで面白い話をしてあげているつもりでしたが、実は客という立場を使って、バーテンダーに自分の話を聞いてもらっていたのですね。

 

ブログを書くという行為は、自己承認欲求を満たす行為なのでしょう。自己承認欲求というのは、心理学者マズローの欲求五段階説の4番目のやつです。

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心理学か何かの学校の授業で、この図をはじめて知ったとき、私は青かったので、このピラミッドを小馬鹿にしていました。自己実現が人生の目的なんて、わかりきっていることなのに、わざわざ絵にしてつまらん分析だ、と小生意気に思っていたのです。

 

しかし、社会に出て、いろんな人と知り合ううちに、この図は人間の行動を理解する上で、とても重要なものであると思うようになりました。

 

とくに承認欲求を満たすために、人間というものは、多大な時間やコスト、労力をかけているということに気がついたのです。 

 

例えば、誰かの飲み屋の会話を聞いているとすぐにわかります。相手のことを聞かずに、ひたすら聞いて欲しい人、喋り続ける酔っ払いはなんて多いことでしょう。情報交換のためよりも、自己承認欲求を満たすために会話をして場合が多いのです。だからみんな自分の話を聞いてくれる人が好きなんですね。欲求を満たしてくれる人に好意を抱くのです。

 

インターネットの時代になって、さらにそれは顕著にあらわれるようになりました。自分のことを知ってほしい、聞いてほしい、認めてほしい、という欲求に突き動かされて、人はブログやSNSを更新し続けています。たぶん多くの人は、自分の中の何がそうさせているか気づいていないでしょう。マズローによると、自己承認欲求は、欠乏欲求です。まるで依存性のある嗜好品のように、承認を求めているのです。

 

 そういうことに思い至ってから、あらためて考えついたのですが、もしかすると自分の経験や考えを人に話したい、共感を得たい、聞いてほしい、という承認欲求は、人間社会を進化させてきた原動力の一つではないかということ。

 

他の動物と違って、人類は知恵があることで、地球の支配者になれました。しかし知恵があるだけではなく、知識を共有することが人類の強みでした。文明を築いたのは人間の個人の力というより、人類という集合体の力です。偉大な天才の発想も、人類の知識の上に成り立ってます。知識の共有こそが、人類という集合体の力なのです。

 

そして知識の共有のはじまりは、まず他人に自分の考えを伝えて理解してもらうことから始まります。「ちょっと私の話聞いてよ~」というところから始まる自己承認欲求から、知識の共有が始まったと考えていいのではないかと思うのです。

 

だから、SNSやブログで、何を食べたとか、何をしたとか、他人にとっては全く役に立たない情報を、ダラダラとアップし続けるのは、人間の基本的欲求につき動かされて行っている行為ではないかと思うのです。もう本能レベルの行動なのです。しかしそれこそが、文明の進化の根であるということです。

 

そうやって考えてみると、自分がブログなんてものを書いているのは、人類の発展につながる本能のようなものなんだなあ、と考えさせられます。

 

インターネットは、そうした欲求を満たす最適な環境です。BlogやFacebook、Instagramなど、個人が手軽に情報を公開することができます。そして、より簡単に自分の思いを伝えることの出来る媒体が生まれると、そちらに人気が集まります。Twitterがブレイクしたのは、つぶやきがブログより書きやすく、共感を得やすいシステムであったからではないでしょうか。Instagramは、さらにメッセージなしに承認欲求が満たされる。どちらも承認欲求を、より簡単に満たせるサービスなのです。

 

しかし今となっては、ブログなんてめんどくさい承認欲求の満たされ方ですね。わかりやすくするために、読みやすい間違いのない文章を書くのはもちろんのこと、写真や地図を入れたり、リンクを貼ったりと、ひとつの記事を書くのはなかなか手間がかかります。

 

そうやって頑張って記事をつくっても、アクセス数は意外と伸びないし、やがて書くネタもなくなってきて、自己承認欲求が満たされなくなり、ブログやめちゃう人も多いんだろうな、と思います。

 

さあて、私の場合はいつまで続くのやら。

 

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