喫煙と禁煙

禁煙してからもう2年になります。明日地球が滅ぶとか、そういう状況にならない限り、もう二度と喫煙者に戻ることはないでしょう。

 

何故私がタバコを吸うようになったか。それはタバコが恰好よかったからです。私の学生時代はまだ昭和でした。昭和ではイケメン俳優が恰好よくタバコを吸っていました。俺もああいう風になりたい、恰好いい男になりたい、と思って高校生の頃からタバコを吸うようになったのです。

 

それに昔の男性喫煙率は8割を超えていたそうです。男性のほとんどが喫煙していたのです。飛行機や電車の中でもタバコが吸えてました。男はヤニ臭いということは当たり前の時代だったのですね。令和になり、喫煙率は2割まで下がっています。この半世紀で喫煙者は大幅に減りました。

 

今はもう、タバコ吸っているのが恰好いいという時代ではありません。喫煙者は社会の中では迷惑な存在であり、ニコチン依存症という哀れな病人なのです。

 

喫煙できる場所もここ十年で激減しています。食事をする場所では、禁煙・分煙は当たり前、健康増進法のおかげでオフィスも禁煙です。東京では路上喫煙も出来なくなっています。東京オリンピックや大阪万博の開催にあわせて、これから日本中でもっと規制がすすみ、喫煙場所は今以上に少なくなるでしょう。タバコが吸える場所を一生懸命に探すストレスがますます増えるのです。

 

私も長い間それらの現実から目を背けていましたが、もう降参しました。3年前に一念発起しタバコをやめることにしたのです。
 
別の事情もありました。インプラント治療を以前から考えていて、歯科医に相談すると、禁煙をすすめられました。喫煙はインプラントの失敗を招く可能性があるのです。数年前からアイコスに変えていましたが、歯周病もひどくなっていました。保険がきかないインプラント治療の費用見積は、軽自動車が変えるほどの金額になりました。それだけの費用をかけるのなら、禁煙するしかない、と決心したのです。

 

禁煙に取り組む理由は人それぞれだと思います。家族のため、健康のため、仕事上の理由、節約のため、いろいろありますが、私の場合は歯の治療のためでした。インプラントの手術前に、歯周病治療を数ヶ月行いましたが、その流れで禁煙できたので、禁煙したい方は、歯の治療と並行することをおすすめします。

 

しかし禁煙は容易ではありません。多くの喫煙者が禁煙に挑戦しては失敗し、挫折感を味わい、自己嫌悪に陥ります。私も禁煙失敗の経験はあります。タバコには依存性があり、禁煙が大きなストレスになるからです。

 

私はタバコをやめるためには、タバコの害、ガンのリスクがあるとか、受動喫煙とか、COPDの話、経済的な視点などで動機付けするよりも、なぜタバコに依存しているか、なぜやめられないか、その理屈について知る事が最も効果的であると思います。タバコを吸う必要性は全くない、という事実を自分の心にしっかりと植え付けることで、タバコを吸いたいという欲求を少なくできると思います。

 

以下その理屈を説明します。

 

全ての動物には、脳内に報酬回路というものが存在します。動物が食事をして生命を維持したり、生殖行為をして子孫を残すのは、報酬回路が機能しているからです。どういう機能かというと、ご飯を食べたり、セックスしたりすると、脳内にドーパミンなどの快楽物質が出て、おいしいとか気持ちいいとか、快楽で脳が満たされるのです。気持ちよくて幸せなことは、癖になり何回もしたくなります。そういう快楽物質による脳内の仕組みが報酬回路なんです。もし、動物に報酬回路がなくなると、食事もしないし、性行為もしない。やがて絶滅してしまうでしょう。

 

タバコのニコチンは、この報酬回路に巧妙に作用します。肺から血管に入り数秒で脳に影響を与えます。ニコチン自体には、快楽物質を生み出す作用はありません。ただニコチンを摂取し続けると、快楽物質の出る量が制限され、信号が減るようになってきます。そしてニコチンが体に入ったときに、制限されていたぶんの快楽信号が出るようになります。

 

もう少しわかりやすく説明します。食事をしたときは快楽物質が出て美味しいなあ、と幸せになります。非喫煙者が出す快楽物質と信号を100とすると、喫煙者は報酬回路がおかしくなっているため、制限されて50くらいしか出ません。そして食後にタバコを吸うと、本来出るはずであった残り50の快楽信号がニコチンによってドバっと出てくるという仕組みです。

 

喫煙者は「あー食後のタバコはやっぱりうまいなあ!」といって喜んでいるのですが、実は非喫煙者であれば普通に出たはずの脳内の快楽信号が、タバコを吸って後から遅れて出ているだけの話なのです。しかし、タバコを吸うタイミングで快楽信号が出てくるので、タバコを吸うと気分が良くなると脳が勘違いをしているのですね。そしてタバコを吸わない間は、快楽物質が制限されているため、どことなくイライラしてしまうのです。禁煙するとご飯が美味しく感じるようになるのは、快楽物質と快楽信号が正常にもどるからなのです。

 

思い出してください。最初にタバコを吸ったとき、不味くなかったでしょうか?タバコは慣れてからおいしく感じるようになりましたね。タバコ自体に快楽物質があったら、最初に吸ったときから美味しいはず。慣れてきてもタバコの味は美味しくありませんが、脳が美味しいと感じるようになります。ごはん食べた時に脳が感じる気持ちよさと同じ状態になってるのです。何度かタバコを吸っているうちに、快楽物質の出る量が減り、ニコチンが信号を出すきっかけになるだけなのです。

 

タバコを吸いたくなるときはいつでしょうか。食事、コーヒー、飲酒、セックス、仕事の完了などじゃないでしょうか。何か快楽物質が出る行為をした後に、タバコを吸いたくなるのです。本当は出ていたはずの快楽物質が止まっているので、タバコで出しているんです。これが依存の仕組みです。

 

タバコを吸わない人は、タバコが吸えなくてイライラはしません。喫煙者は、タバコによって快楽物質の蛇口が閉まってイライラしているだけ。

 

このタバコの依存性の仕組みは、タバコ会社もわかっているはずです。タバコのニコチンに、快楽物質の成分はありません。ニコチンは人間が持っている報酬回路の仕組みを崩して、ニコチンが快楽物質であるかのような錯覚を起こさせているだけなのです。したがってタバコは本来人間にとって不必要なものであり、喫煙者から金銭を集めるための巧妙な詐欺ともいえるでしょう。

 

私は以上の理論武装と歯の治療で、禁煙期間を乗り切ることができました。ほぼ3ヶ月間の禁煙で、タバコがおかしくしていた脳内の報酬回路は復元します。しかし喫煙者にとって禁煙というのはとても苦しい戦いです。それは動物の生命維持や生殖という本能と深い関わりのある脳のシステムが関係しているからです。

 

 報酬回路は、動物であれば生まれたときから持っています。腹がすけば不安になり、満腹になれば安心します。欲求が満たされれば満足することを、誰に教わるわけでもなく生まれつき持っているのです。そして大人になっても本質的なところでは変わっていません。

 

依存症は、報酬回路のバランスが崩れ、快楽物質に支配された状態です。ドラッグやアルコールの依存症、メンヘラのリストカット、セックス依存、ギャンブル依存、仕事中毒、痴漢などの犯罪行為、など、本人が理性でやめたいと思っているのにやめられないのは、結局は快楽物質に依存しているのです。

 

 

しかし、動物の中で人間だけが、本能そして報酬回路に反する行動が出来るのです。依存症は必ず克服できます。
 

私も人生でタバコにたくさんのお金と時間を使ってしまいました。もう過ぎたことですし、いろんな状況で、タバコが私の人生を演出してくれましたから、思い出として後悔はありません。それよりこれから先にタバコを吸わなくてすむので、将来が明るくなりました。人間は何歳になっても明るい未来というものは必要です。

 

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