自己肯定感とセルフネグレクト

コロナ禍の2020年に、有名な若い俳優さん達が続けて自死しました。

 

競争の激しい芸能界で、世間から認められるまで頑張ってきたのに、どこかで心が折れてしまったのでしょうか。自ら死を選ぶほど、死に逃げたくなるほど、心が苦しみで満たされていたのでしょう。自分とは世界が違う遠い存在ですが、ニュースを聞いて心が痛みました。

 

彼らが死を選んだ本当の理由は、誰にもわかりません。どんなに親しい間柄でも、人の心を完全に理解することはできません。でも、複雑な家族関係を記事で読むと、子供の頃に健全な自己肯定感を育成できなかったのではないか、と彼らの心境を想像しました。

 

「自分が嫌い」と思うことは誰にでもあると思います。失敗したり、恥をかいたり、他人と諍いを持ったりしたとき、どうしようもなく自己嫌悪に陥ることは誰にだってあると思います。そういう時に、自分の行いを反省して、よりよく生きようと考えるきっかけになるのであれば、自己嫌悪の感情はあってもよいと思います。

 

よくない自己嫌悪は、自分が嫌いだから自分なんかどうなってもいいんだ、と自暴自棄になることです。

 

自暴自棄になると、自分を大切にしない行為をしてしまいます。例えば、過度な飲酒や栄養を考えない食事など、体に悪い習慣を続けたりします。治療の必要がある病気を放置したりすることもあります。長い間入浴せずに、部屋を掃除せず、不潔な部屋に住み続けたり。不特定の相手と性行為をする。将来を考えずに、自堕落な生活をしたり、浪費や借金、ギャンブルをしたりする。対人関係でいえば、自分にとって大切な人を傷つけてしまったり、自分を害する人と離れられなかったり。そして自ら死を選ぶこともあります。

 

自暴自棄になってよくない行為をしてしまう人は、自分の存在価値を否定しているのです。自分にとってよくないことだとわかりながらも、自虐的で破滅的な行動をしてしまうのは、自分が嫌いなので、自分を否定し自分を大切にできないからです。

 

そういう行為はセルフ・ネグレクトといわれています。ネグレクトは虐待を意味し、文字通り自分自身に対して虐待を行うことです。

 

私もそういう面が昔から多少ありました。俺なんてどうなってもいいんだ、と良くないことをしてしまうのです。死にたいと思ったことも何度もあります。何故そういう自分になったのかを、冷静に自己分析してみると、生まれ育った環境や家族との関係、自分自身の能力や身体に対するコンプレックスなど、子供の頃に自己肯定感を健全に育成できなかったという原因を、自分の人生の中に見つけることが出来ます。 

 

大人になって、なんとかそういうものを克服し、自分を大切にできるようになりましたが、この子供の頃のトラウマとかコンプレックスというネガティブな感情の記憶は、とても厄介なものです。子供の頃のことを忘れて、充実した毎日を過ごしていても、恵まれた人間関係があったとしても、ふとした時に心が黒く塗りつぶされるときがあるのです。

 

最近読んだ記号論の本で、年をとって早く時間が進むのは、感情の変化が少なくなっているからだ、というような説明を読みました。人間の思考や認知の基礎は、その人の知識や記憶によってつくられていますが、その記憶には感情というものが強く影響しているのです。感情を伴う経験が記憶にしっかりと残り、感情を伴わない経験はすぐに忘れていくと書いてありました。

 

子供の頃に時間の流れが遅いのは、世の中について何も知らず、接する全てが新鮮なので、それだけ感情が大きく揺さぶられているからということです。そして、その感情の動きから、知識や記憶がつくられて、それがその人のベースになっていくのです。

 

ということは、子供の頃に悲しい思い出が多いと、その悲しさは人格の根っこに強く刻み込まれて、その人から消えることはない、ということかもしれません。

 

せっかく頑張って立派な大人になったのに、遠い昔の子供の頃の複雑な事情に、人生が誤った方向に影響されてしまうことがあるとするなら、それはとても残念なことだと思います。生きてさえいれば、新たに学ぶこと、新しい感動もいろいろあります。絶望していたとしても、生きる意味を新しく見つけることもできるでしょう。

 

月並みな言葉ですが、せっかく生まれてきたたのです。自分を大切にしましょう。

 

もし子供の頃に辛い思いをしていて、それが大人になった今でも苦しいのであれば、楽しい経験をいっぱいして記憶を上書きするしかありません。自分が感動することを探しましょう。

 

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